NDL調査研究2013 「公共図書館における地域活性化サービスの創造」(参加報告)

報告会からかなり時間が経ってしまいましたが,参加報告をまとめましたので掲載します。なお,本報告は@Mabeshibaの私的なものであり,内容について参加者をはじめ関係各位に確認を取ったものではありません。もし事実誤認がありましたら,Twitterアカウント@Mabeshibaまでお知らせください。


1.はじめに

 国立国会図書館平成25年度図書館及び図書館情報学に関する調査研究報告会「公共図書館における地域活性化サービスの創造:あのサービスはいかにして生み出されたのか」(国立国会図書館東京本館,2014年2月24日)が開催されたので報告する。

 報告会では,まず第一部で地域のための図書館サービスに取り組んでいる4つの事例報告があり,続く第二部ではそれら事例に対する研究者による分析と,それを受けた上でのディスカッションが行われた。

2.第一部「事例報告」について

(1)「農業支援サービス事始め」手塚美希氏(柴波町図書館)

 柴波町は岩手県盛岡市の近郊にあり,主産業は農業である。図書館は開館して1年半あまりであり,民間施設を含む3つの施設の一部に図書館がある。柴波町図書館が農業支援サービスを始めた理由は,町の基盤が農業であり,農業はビジネス支援になりうるとして設置時から農業支援を意識した。

 農業支援サービスの実施に当たっては,農林課や農林公社といった外部組織との連携が不可欠であった。これら外部の専門家を通じて,利用者となる農業関係者のニーズや図書館における情報発信に対する理解を得ることができた。特に図書館において特別な専門性を求められるのではなく,図書館は外部の専門家への橋渡し役であるという点がポイントであった。

 具体的な事例としては,関連資料の収集・提供,企画展示の実施,オンラインデータベース「ルーラル電子図書館」の導入とその講習会などがある。その結果,多くの農業関係者と人的交流を得ることができたほか,専門技術以外のレファレンス質問を受けることも多くなったとの報告があった。

(2)「ICT地域の絆保存プロジェクト」加藤孔敬氏(東松島市図書館)

 はじめに震災3年目を迎えた東松島市の現状とこれまでの取組みについて,時系列を追って説明があった。これまで来館型配本サービス,移動図書館の運行,仮説住宅内の小規模,学校図書館支援など,ボランティアの組織化・協力を得ながら実施してきた。そして震災3年を向かえ,震災記録の収集・整理・保存にも取り組むようになった。

 この事業は「東松山市復興まちづくり計画」の一環として実施している。収集対象はメディアに掲載された震災記録の収集に加え,震災写真や震災資料,そして市民の震災体験談が挙げられる。これら収集した情報は,資料の製本化,デジタル写真に対するメタデータの付与,スクラップ記事にバーコードを調布し,見出し索引を作成することで資料アクセスできるよう試みている。また現在取り組んでいる課題として,震災体験の映像アーカイブ化があるとの報告があった。

(3)「高齢者福祉施設訪問サービス『元気はいたつ便』事業報告」河合美奈子氏(田原市立中央図書館)

 田原市では図書館に来館することができない利用者,特に高齢者福祉施設の入所者に対する訪問サービスとして『元気はいたつ便』を実施している。『元気はいたつ便』は光交付金に基づく事業であり,市内3施設のみを対象とした試行的な事業と位置づけられている。

 プログラムは大きく分けて二つあり,一つは「グループ回想法」,もう一つは「元気プログラム」である。「グループ回想法」は数名のグループを対象に,昔の写真や博物館から図書館に貸与された生活用具などを用いて,かつての体験を語り合ううちに脳を活性化することを図るプログラムである。また,「元気プログラム」は紙芝居や大型絵本の読み聞かせなどからなるレクリエーションと,数十名を一度に対象とし,20分程度の短時間で実施するミニ回想法を実施している。さらに,これらとは別に団体貸出を実施しており,市内13施設を対象に月1回の頻度で実施している。

 その他,訪問サービスボランティアの養成を進めているほか,今後のサービス検討のため期限付き訪問サービスを5施設に対象に実施する。これを踏まえ,本格実施への移行を進めたいと考えている。

(4)「リトルプレス『そこら』作成について」山梶瑞穂氏(東近江市八日市図書館)

 東近江市は旧八日市市をはじめ近隣の自治体が合併してできた自治体である。図書館は教育委員会の直轄であり,図書館単体で様々な事業取組みが可能な組織となっている。

 リトルプレスとは限られた場所でのみ販売されている個人や団体が発行している小冊子である。これに着目した理由は,地域の情報収集や情報発信に有益であると考えたためである。

 リトルプレス収集は,各地のリトルプレス展に直接参加して収集する他,ネット書店の活用や,出版元からの直接購入などで行っている。全国を対象とし,現在170冊所蔵している。これらは利用者に対して貸出もされている。

 また情報発信においては,リトルプレス「そこら」を刊行している。刊行のきっかけは,図書館からの情報発信を行いたいとの思いや県内のリトルプレスの存在,職員内にリトルプレス作成経験者がいたことなどが挙げられる。

 刊行にあたり,図書館には印刷費が無かったため市の「緑の文献改革課」の協力を得て作成した。また記事は館内の若手職員が協力してインタビュー等を行い,東近江の魅力を伝えるものに作り上げることができたとしている。

3.第二部について

(1)調査研究分析「地域活性化に向けたサービスの分析」松本直樹氏(大妻女子大学

 事例報告に引き続き,研究調査チームより本研究の分析報告が行われた。報告に先立ち,主査の田村先生より本研究が質的調査であり,これらの事例から一般的な傾向を図ることを目的としていないこと,個々の事例の過程を明らかにしたい旨の説明があった。

 はじめに研究の枠組みとして,地域活性化に貢献する図書館サービスがどのように始められ成長したのか,図書館による地域活性化サービス化がどのように行われたのか,の二点を調査することが示された。なお,ここで言う地域活性化とは,地域資源の活用や住民のコミュニケーションの活発化,地域情報の発信・交流などを指している。

 次に研究方法が示された。まず調査対象の図書館としてこれら4つの事例に加え,ピッツバークカーネギー図書館を取り上げることとした。対象の選定は,①地域活性化に貢献しているサービスを実施または策定中であること,②奉仕人口が大きくなく自治体規模に応じた資料費があり,貸出密度が比較的高い地域であることであった。これらの事例について,実際にサービスに携わる職員に報告してもらい,研究者は報告書の作成に対する助言やサービスが成功するポイントの指摘,各サービスが地域活性化にどのように貢献できるか,といった分析を行った。分析の結果は以下のとおりである。

1)「地域課題の発見」

各事例とも地域にある課題を人的交流により発見し,それを図書館の持つリソース・技術で解決しようと試みていた。

2)「内部資源の活用」

 図書館の内部資源には人,物,予算,知識などがある。特に人的資源においては,専門的職員の持つ知識を活用していたほか,職員の身分にこだわらず図書館に所属する人材をフルに活用していた。また予算においては外部資金の利用や外部組織の予算の活用を図るなど工夫が見られた。

3)「外部資源の活用」

 外部の団体,個人との情報交換を積極的に行っていたほか,事業実施にあたり他団体との連携が図られていた。連携の特徴として,いずれも地域志向であること,公共的な価値を推進することを目的としていることなどが見受けられた。

4)「事業遂行上の課題」

 各事例いずれも試行的な取り組みであり,職員側もノウハウ不足でありながら事業遂行の過程でノウハウを取得していた。また利用者のニーズを利用者とのコミュニケーションの中から抽出し,サービスにつなげていた。実施体制においては,限られた人的リソースにおいて内部で協力しながら,時に外部の人材と連携をして事業を進めていくなど工夫が見られた。

 

 最後に,これらの事例が示すこととして,外部から知識を取得していくプロセスが重要であること,これらの特別なサービスが図書館サービスの一部として取り込んでいくことの重要性が指摘された。

(2)ディスカッション「地域のための図書館サービスのつくりかた」コーディネーター田村俊作氏(慶應義塾大学)ほか

 ディスカッションは事前に会場から寄せられた質問に加え,コーディネーターからの質問に対して事例発表者が回答する形式で行われた。質疑は主にサービス内容,内部資源の活用,外部資源の活用に焦点を当てて行われた。

 まずサービス内容については,サービス導入のきっかけや具体的な実践方法などについて質疑が行われた。いずれも目の前にある課題をどのように解決するか,解決策を模索するうちに事例に取組み,発展していったことが伺えた。

 また内部資源の活用においては,通常業務との兼ね合いや実施体制に関するものが多く見られた。各事例に共通する点として,一般業務へのしわ寄せや,図書館がそのサービスを行う意義などについて声が無いこともなかったが,全般的にスムーズに進められる環境であったことが明らかになった。

 最後に,外部資源の活用については,予算等を要する事業について,事業継続性に対する質問が寄せられていた。いずれの事例においても,予算の一般化や他の外部資金獲得を目指すなど,事業継続性を高める努力がなされていることが明らかになった。

4.おわりに

 最後に参加者としての所感を述べる。本研究は質的調査であり,これらの事例から地域活性化サービスを実施するための一般的な手法を検討するものではない。しかしいくつかの点において,参考になるポイントがあったのではないかと考える。

(1)地域課題の発見

 地域にはその自治体特有の特徴がある。産業,人口構成,文化などに差異があり,それらに基づく潜在的な情報ニーズが存在する可能性が高い。今回の事例報告では,図書館が外部に出て情報ニーズを把握することが積極的に行われていた。特に地域の住民や団体,他の行政部局とのコミュニケーションによってそれらニーズが発見されていた。これらの手法を用いて地域課題を発見することで,地域の埋もれた情報ニーズの発掘と,図書館として取り組むべき課題の発見につなげることができると考えられる。

(2)事業実施体制

 図書館には様々なサービスがあり,日常的なルーチン業務をこなすだけでも精一杯という図書館が多いことは想定される。

 しかし今回の事例では,通常の図書館サービスを実施しながら新しい地域活性化サービスの実現している。その理由として,事業に対する図書館全体のコンセンサスと,事業遂行におけるリーダーシップの存在が挙げられる。このように事業実施体制が確立していれば,通常業務の隙間時間等や外部資源を活用して新しい事業を進められる可能性があると考えられる。

(3)外部資源の活用

 今回の事例では図書館が事業の主体となりつつ,予算面,人材面で外部資源の協力を得て実施しているケースが見受けられた。

 予算においては外部資金の活用が多く見られた。競争的資金に申請するほか,行政他部局と共同で事業を実施して他部局の予算で執行するなど,工夫次第で図書館自体の予算を用いなくても事業が実施できる可能性が示された。また今後の課題として,海外では一般的となりつつあるファンドレイジングの活用なども考えられる。

 人材面では外部人材のノウハウを活用するほか,ボランティアの育成をはじめ,サービス実施のための協力者を作るといった手法が見受けられた。ここでのポイントは,事業の主体が図書館であり,全体のコーディネイトを図書館が主体的に行っている点である。事例では,事業全体の計画や実施方法の策定は図書館が適切に管理し,外部の協力者に対しては適切な指示,依頼をすることによってサービスは円滑に行われていた。こうした手法は他の自治体にとっても参考になるものと考えられる。

 おわりに,今回の報告がもたらす可能性について述べたい。公共図書館は,昨今の人員・予算体制の下,必要最低限のサービスしかできていないというケースも多いと考えられる。しかし今回の報告では,地域課題を解決するという図書館としての明確な意思と事業管理によって,限られたリソースでも新しい事業を行えることが示された。この報告を踏まえて,こうした実践がさらに広がることを期待したい。

(@Mabeshiba)